『信長の野望』は、やさしい世界
ヌルいSLG愛好家が、ようやく足を踏み入れた約束の地。
仰々しいタイトルとパッケージを畏るるなかれ。
思いのほか、『やさしい体験』が待っている。
恥の多いシミュレーション歴
我が恥の多い人生、ついに「信長の野望」に手を出してしまいました。
恥とか、手を出してしまっただとか、「なにを大袈裟な」とお思いでしょうか。
どうかお嗤いください。
それほどまでに私のシミュレーションゲーム歴は「下手の横好き」そのもので、比較的ライトなゲームをヌルく遊んできただけ、というざまなのです。
古くは、『ファイアーエムブレム紋章の謎』。
それに『ネクタリス』がフリー化された時に序盤だけ。
『スーパーロボット大戦』を何作か。クリアしたのもあるし、してないものもある気がする。
『スター・ウォーズ ギャラクティック・バトルグラウンド』。グンガンの偉大なる軍隊でAT-ATと戦えるのが楽しかったですが、マルチプレイでは散々な戦績でした。
そんな私でしたから、『信長の野望』の存在は古くから知っていましたが、『戦国マニアなおじさんがパソコンで遊んでいる、巨大なパッケージの近寄りがたいゲーム』という程度の認識だったのです。
ことのおこり
ところでよく考えたら、先に挙げた作品達は「戦術」シミュレーションであって「戦略」シミュレーションではない気がしてきました。
ですから、戦略シミュレーションの経験は『機動戦士ガンダム ギレンの野望』シリーズが唯一かもしれません。
じつは昨年末、ジ・オリジンの映画を一気見して、ルウム戦役のシーンを観たままのテンションでガンダム熱がもどり、PS2の『ギレンの野望 独立戦争記』をついやり直してしまったんですが、やっぱり面白い。
ただ、『ギレンの野望』はガンダムのゲームとしては非常に真摯に作られている作品だとは思うけれども、戦略シミュレーションゲームとしてはとてもライトな作りになっており、ちょっとした物足りなさを感じないでもありません。
まず、基本構造が一年戦争をなぞるゲームなので、終始、連邦軍とジオン軍が陣取り合戦するという内容です。原則は『より強い兵器をより早く開発し、より早く大量に実戦投入できれば、勝つ。』当たり前のことです。
いずれにしろ、最後はドムやズゴックがジャブローを蹂躙するか、ジムスナイパーの大群がア・バオア・クーに押し寄せるかのどっちかなのは明白です。
ファンサービスとしては素晴らしい作品だけれど、言ってしまえば、そんなに奥の深いゲームではない。(シリーズを重ねるごとに「歴史のIf」から新興勢力を作ったり、グリプス戦役まで話を進めてしまう追加要素が加わっていったのも、さもありなん。)
外交要素や世論の要素も一応ありますが、至極単純なものでした。
それに物足りなさを感じてしまったので、気まぐれに、パロディ元であろう『信長の野望』に手を出してみたわけです。
信長の野望、とは
『信長の野望』。
あらためて、なんと重厚なタイトルでしょうか。
そのタイトルとパッケージ。まさに、飢えた戦国マニアを納得させるため、諸説ある史料を吟味して作り上げられた、難解で壮大な歴史ゲーム。
それが、どうしたことか。
いざやってみると、意外と親しみやすく、そしてやさしいではないですか。
この「やさしい」というのは『難易度が低い』という意味ではなく、『ユーザーフレンドリー』、そして『世界観が人を傷つけない』という意味です。
いまだにPS3が主力の我が家ゆえ、最新作の「大志」ではなく「創造」をやっているんですが、この「創造」はシリーズ中でもシンプルなシステムらしく、非常にとっつきやすくて、初心者でもすぐに楽しめます。
今更ですが、「信長の野望」がどんなゲームかをご説明しましょう。
戦いの舞台は群雄割拠の戦国時代。
言わずもがな、16世紀半ばから17世紀初頭にかけての日本列島です。
ゲーム開始にあたっては、まず「年代」を選びます。
史実でターニングポイントとなった事件の起きた年代から、スタート地点を選べるわけです。
タイトル通り、織田信長を中心とした史観なので、
・家督相続
・桶狭間
・信長包囲網
・本能寺
・清洲会議
…といった年代が基準となります。
好みの年代を選んだら、その時点で存在している勢力の中から一つを選び、そのリーダーとしてプレーします。
当然ながら、強く有利な勢力もあれば、その逆の弱小勢力もあります。
・城の数
・地政学的な要素
・家臣団の人材
などが有利、不利を大きく影響します。
基本的には、各勢力が城を支配下においていく「陣取り合戦」的なゲームといえます。
ただし、私のやってきた他のゲームとの違いは「目的のためにとれる手段の豊富さ=自由度」です。
城を支配下におく方法も、戦争だけではありません。
外交により相手を従えることもできますし、他勢力との同盟して圧力をかけたり、第三勢力に停戦をとりなしてもらうことも可能です。
一応、最終的には『天下をとって日本統一する』というのが大きな目標ではありますが、その方法も『武力で全国を占領する』だけではなく、たとえば『朝廷から征夷大将軍に任ぜられ、全国に戦の停止を号令する』なんていう方法もあります。
まずはプレーしてみる
私は初心者ですから、とりあえず織田家のシナリオを始めました。
史実通り、父・織田信秀の死後に、兄弟との骨肉の争いが始まります。
この時点で信長が持っているのはわずか一つの城、那古野城だけ。しかし家臣団は優秀で、苦もなく対抗勢力の清洲城をとり、尾張を平定することができます。城が増えると、できることの幅が一気に広がります。
桶狭間で今川を破り、美濃の斎藤家を滅ぼして家臣団を吸収、そして徳川と同盟。このあたりから、すべての流れは完全に信長に向かってくるのを感じます。
とりあえず史実どおりに浅井・朝倉と外交関係を結んで同盟すれば、たまにちょっかいをかけてくる上杉・武田を警戒しつつ、六角や石山本願寺を攻めるべし。
ゲーム上は全て「城」が基本単位となっており、城の人口を増やして栄えさせることで、城にひもづいている兵士や食糧、金銭収入も増えていくという寸法になっています。
ですから、重要拠点には政治力の高い武将を配置して内政をさせて栄えさせ、調略や交渉は智略派の武将に任せ、最前線には武勇に優れた武将を配置します。
城と城の間は「街道」で結ばれており、街道の開発をすることも重要な要素です。
街道が広がると、周辺の城の発展につながる他、軍団が通る時の行軍スピードが速くなり、大軍をスムーズに移動できるようになります。(ただ街道を不用意に開発しすぎると、それだけ敵の大軍に素早く攻められてしまうデメリットもあります。)
そうこうしているうちに、意外なほどあっけなく武田・上杉・三好・長宗我部を下すことができ、いくつかの従属勢力も出てきました。
包囲網もなんのその。征夷大将軍となって戦を終わらせ、一応のエンディングを迎えることになりました。
自由度が高く、ゲームシステムの構成要素は多いのですが、各要素の噛み合い方が現実に即しているぶん理解しやすいので、複雑には感じません。そういう意味でユーザーフレンドリーだと思います。
織田家はつよい(小並感)
ここまでプレーして物凄く実感できるのが、「織田家は強い」という当たり前の事実。
人材の強さと多さ、そして最初のテリトリーとなる尾張がとても有利な場所だということがよくわかります。
とくに人材面は素晴らしい充実ぶりがすごい。
信長自身も強いが、それ以上に織田の家臣団は層も厚くて、もはやチート的なほどです。
柴田、滝川、丹羽、村井、前田など能力の高い武将が初期から揃う上に、超万能スペックの2大巨頭・木下秀吉と明智光秀まで擁しているスーパースター軍団です。
他国ならレギュラーであろうレベルの人材が、織田にいては2軍・3軍に埋れてしまいかねないほどです。
また、尾張という本拠も非常に有利です。
前提として、平地の城は栄えやすく、山城は栄えにくいんですね。
この点、尾張というのは国内でも関東平野につぐ広い平地であり、城の数も多いので、米や資金が潤沢に手に入ります。本拠地としては最高です。
京都にも近くて上洛も楽だし、背後は同盟国の徳川が守ってくれるので、最初の拠点としては最高の条件です。
子供の頃、大河ドラマ『秀吉』を見ていた記憶が錯綜します。これで負ける要素がない。
そして、『織田家が強い』ということは逆説的に『他の勢力でのクリアには工夫が必要』ということも指します。
織田家がかなりのスピードで勢力を伸ばし、畿内一帯を手に入れてしまうのは、ほとんど確定事項です。
これがたとえば東北や九州の勢力でプレーしようものなら、必ず最大の敵として織田家が立ちふさがってくることになりますからね。攻略のしがいがあるというものです。
意外なほどに「やさしい」ゲーム
先だって『世界観が人を傷つけない』ゲームだと言ったことについて補足しましょう。
歴史ものというのは、ある意味では残酷さをはらんでいます。
なにしろ史実が基本となりますから、登場人物も勢力も、大筋の結末も、動かせないものになってしまうんです。
そこをゲーム化する『信長の野望』では、『リアルとIFの選択肢』を用意しています。
史実の既定路線をなぞってもよし、時代に抗ってもよし。
再解釈、再評価、同情、偏見、えこひいき、等々により「もしも」の余地が生まれます。
ゆるぎのない事実として21世紀現在、明智光秀や松永久秀は「裏切り者」の汚名をかぶっていますし、浅井家と三姉妹は時代の悲劇に見舞われますし、竹中半兵衛や毛利隆元は早世します。
それが、プレーの選択肢によっては微妙に揺らいでくるんですね。
たとえば、他の大名との戦に勝ったり領地を全滅させると、相手方の武将を「捕縛」するタイミングがあります。
この際、恭順する者は登用することもできるし、そうでない者は処刑するかどうかを選択できます。
処刑せずに放免した場合、その後、プレーヤーの家に登用することができる可能性が出てきます。
これによって、ありえない番狂わせが起きてくるんですね。
織田家の家臣団に普通に武田信玄や、浅井長政や、本願寺顕如がいる状況すら発生します。組み合わせしだいでは、胸の熱くなる救済措置やドラマチックな展開、または壮大なジョークにすら成り得ますよね。
スパロボでおなじみ、原作での悲劇的展開をゲームのIFで救済する展開に似ています。プルとプルツーが両方生き残って味方になったりする、アレです。
ただ、あちらは基本的に一本道のシナリオの中での細かい分岐要素として、あらかじめ筋書きに含まれているものです。一方、信長の野望ではゲームシステム自体に「もしも」の余地が組み込まれているので、多くを語らない代わりに自由度や可能性は比較になりません。
また、「プレーする勢力を自由に選べる」点にもまったく同じことが言えます。
みたいなことが、いくらでもできるわけです。
それは故人である登場人物に対しての『救い』になりうるし、彼らに思いを馳せるプレーヤーにとっても『救い』になりうるんですよね。
これはある意味、とてもやさしいことだと思うのです。
さて、私も自分の救いを見つけるために、他のもしもを探してみたいと思います。
ふるさとの中国地方には思い入れがあるので、毛利や大内で天下をとる夢物語を実現してみたいと思います。
もし大内義隆が野心を失わなかったら、西日本の覇者は大内になっていたのではないか?なんて思うと、じつに胸熱ではありませんか?