『007は二度死ぬ』これぞ「トンデモ日本」のクラシック。
ついに来たるはトンデモ日本。忍者に相撲に天守閣。
平和な漁村に魔の手がせまる。
予算はA級、ノリはB級。
ボンドがやらねば誰がやる。
日本人の映画ファンが007シリーズを見返すとき、言及せずにはいられないのが、本作『007は二度死ぬ』です。
なにしろ、
『日本が舞台』で、
『日本で大規模なロケ』が行われ、
『日本人俳優』が主要人物を演じます。
私の世代でも「浜美枝=日本人のボンドガール伝説」は知名度が高いので、レジェンド的な作品と言えるでしょう。
そういうわけで、本作は色んな意味で見どころが満載。
しかも、色々な切り口から楽しむことができるので、一息には語りきれません。例によって、それぞれの観点から本作を愛でましょう。
ショーン・コネリーファンから見た『二度死ぬ』
本作は当時、ショーン・コネリーがジェームズ・ボンドを演じた最終作でありました。*1
驚異的なエネルギーによって任務をこなすのが持ち味のコネリー・ボンドですが、本作『二度死ぬ』ではそのエネルギーをコメディーに向け、「一見ふざけた任務にも全力で打ち込む男」として、プロ意識の高いところを見せてくれます。
いちおう序盤こそは、スパイらしく、自らの死を偽装してみせるのですが、今作のミソとなる舞台装置、「不思議の国・日本」に上陸したのが彼の転換点。
相撲、忍者、謎の美女、”日本式“の湯浴み、クモの毒、地下秘密基地、ピラニア…カオスの洪水に見舞われ、ボンドにとっては完全にアウェイな国です。
でも、そこは我らの主人公。映画1本の間にすっかり順応し、結局は世界を救ってみせます。
珍品中の珍品、「特殊メイクで日本人に扮するショーン・コネリー」が見られるのも、本作の(好事家的な)目玉要素。
『猿の惑星』より前の映画であることをふまえると仕方ないのでしょうが、特殊メイクはちょっと微妙。どう見ても日本人には見えないこの奇妙な男が、田舎の漁村で紋付袴を着て花嫁を迎える図は、いたくシュールです。
トンデモ日本ファンから見た『二度死ぬ』
海外のエンターテイメントにおける、カリカチュアされた日本の描き方を「トンデモ日本」と総称します。古くは『ティファニーで朝食を』の時代から、『アベンジャーズ:エンドゲーム』に至っても、トンデモ日本の系譜は途絶えることがありません。
個人的には、これはもはや様式美であって、「フィクショナル・ジャパン・ユニバース」のようなものだと捉えるのが、丁度いい塩梅だと思っています。*2
『二度死ぬ』は、そんな「トンデモ日本」の長い歴史において、記念碑的な作品ではないでしょうか。
つまり、『トンデモ日本のクラシック』です。
時系列でみていきます。
本作は1967年公開です。
当たり前ですが、のちの『トンデモ日本』につきものとなった二大要素『サイバーパンク』と『ポップカルチャー』が、この時代にはまだ存在していません。
この二大要素は終末観、ディストピア観と親和性が高いので、この2つがない『トンデモ日本』はギラギラとして生命力に満ちており、それがコネリー・ボンドのエネルギッシュさと相性がよいのです。
『サイバーパンク感』と『ポップカルチャー』以前の、60年代の日本。
そこにあるのは、「サムライ」「戦争」「男尊女卑」そして「高度経済成長」。
とても奇妙で、功利的で、生理的に嫌悪感も感じるが、同時に生命力にあふれていて、魅惑的。
そんな、西洋人から見た日本の風景を、映画的にヘンテコに飾り立てられたビジュアルの奥に、透けて見てとることができます。
ホテルニューオータニ、2000GT、宇宙開発にまで手を出す大企業…という日本の「文明的に」きらびやかな一面が画面を彩りますが、一方で、「観光映像ならお手の物」の007スタッフたちの仕事ですから、美しい日本の自然もフィルムに焼き付けてくれています。とくにヘリコプター戦の前後に流れる空撮のシーンは素晴らしく、当時の邦画では見られないような視点とスピード感で、美しい自然を見せてくれます。
特撮好きから見た『二度死ぬ』
本作では、周回軌道上での宇宙船同士のランデブーの場面があるのですが、これがなかなか完成度が高くて驚きました。
まあ、『2001年宇宙の旅』と『アポロ11号の月面着陸』より前の映画なので、あくまでもその基準から見て、という注意書きは必要なんですけども…。
初期ボンド作品の特撮を手掛けたジョン・スティアーズの手腕が光ります。
また、毎度おなじみの大規模セットは今回もすさまじいです。
ごらんなさい、このセットの威容を!
鑑賞時にはなるべく事前情報を入れずに観ることにしているので、このセットも最初はマットペイントかと思って、思わずカメラが動くたびに目を凝らして見てしまいました。やがて「とんでもないスケールのセットだ」と分かって、感動すらおぼえました。
動く天井とロケット発射台の迫力はもちろん、多人数が入り乱れて銃撃戦をするための高低差、ギミックとしてのモノレールなど、このセットは本当に凝って作られています。デザインも、それを実現化する技術力も、さすがは世界一の超大作といったところです。
ボンドガール:『アキ』&『キッシー鈴木』
ミステリアスな謎の女『アキ』を若林映子、
ボンドと偽装結婚する海女『キッシー鈴木』を浜美枝が演じています。
先に「浜美枝=日本人のボンドガール伝説」と書きましたが、実際に映画を見てみると思いのほか、若林映子の比重が高いことに気づきます。むろん、東宝映画ファンにはおなじみの国際派女優とあって、英語のセリフ量も多く、堂々たる風情です。
よくも悪くも、当時の「エキゾチックな美女」を体現する存在だったんでしょうねぇ。