ソウル・エデュケーション

広く浅く、趣味の味わいを探求するブログ

『007/サンダーボール作戦』スパイ映画は”水面下“で動く

世界の滅亡まで、わずか7日。

核爆発を防ぐため、我らの007が海を駆ける

 

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核兵器をめぐる、文字通り"水面下"のスパイ劇

 

やっと来ました、『サンダーボール作戦』。007シリーズ独特の匂いは色濃く残しながらも、純粋なアクション映画として見ごたえのある作品でした。

前作『ゴールドフィンガー』でB級寄りのインパクト重視な作風に振り切った007シリーズでしたが、本作『サンダーボール作戦』では、シリアス路線とのバランス調整を行った印象です。

 

全体的なフィーリングは1作目『ドクター・ノオ』に近いスパイものの原点回帰をしているものの、要素の骨組みを整理して、「見ごたえのあるアクション」と「豪勢なロケ撮影」をしっかりと軸に据えて作っているのではないかと。

 

前作までの功績で、すでにドル箱と化したシリーズものだから許される、古き良きアクション大作となっています。

 

 

過去イチ、気合の入った撮影

 

サンダーボール作戦』を彩るのは、前作までとは比較にならないほど、気合の入った撮影だと思います。

 

やはり一番の目玉は水中アクションシーンです。

65年の映画ということを考えると、相当オーバーテクノロジーに思えるような技術力と機材が使われていたのでしょう。すごいレベルの画面の明るさ・鮮明さ、そして芝居の明瞭さ。(声による芝居が使えない水中シーンでは非常に重要)

水中に実寸大の爆撃機を沈め、さらにネットを張り巡らせて芝居させたりというのも意欲的です。

 

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当時としてはおそらく最高に凝った水中アクションが見もの

 

あと、潤沢な予算を反映してか、空撮が多いのも印象的ですね。

ドクター・ノオ』でも美しい海が舞台になってはいましたが、あくまでもドラマ映画の背景としての美しさでありました。対して、今作は海そのものが被写体となり、観光宣伝用の映像もかくやという美麗さです。バハマの透き通るような海を満喫させてくれます。当時、多数の観光客が聖地巡礼へ出かけたであろうことは想像に難くありません。

 

 

すごいセットシリーズ:スペクター会議室

 

もう一つ、当時の007の羽振りの良さを象徴するのが、豪華なセットだと思っています。

 

独創的なデザインと仕掛けを持った敵組織のアジトはその象徴です。

前作まででも、ドクター・ノオの居室、ゴールドフィンガーの邸宅、フォート・ノックス内部のセットなどが優れたデザインの片鱗を見せていましたが、今作はさらに一味違うところを見せてきます。

 

ご覧あれ、「スペクターの会議室」です。

 

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広大な空間、無機質な照明。かっこいいですね。

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ナンバー1の顔見せは、まだおあずけ。

これは画面に出てきた瞬間、ぎょっとするほどインパクトがありました。

洗練された打放しコンクリートの広大な空間。ブルータリズム建築もかくやという壮麗さです。シリーズの美術を手掛けるデザイナー、ケン・アダムの辣腕ぶりが伺えます。*1

 

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セットのデザイン画からして、このアングルがベスト。

 

悪役の鑑:『エミリオ・ラルゴ』

さて、そのかっこいい会議室で重要任務を任されているのがナンバー2ことエミリオ・ラルゴでした。

 

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悪役として、ものすごくちょうどいい存在感。

 

いかにもラテン系なルックス、眼帯に日焼けした肌。別荘のプールには人喰いザメを飼っており、分離可能なクルーザーを使って核爆弾を奪取します。

悪役としての鋭さ、残虐さ、適度な大物感を持ちながら、適度に手ぬるく、最終的には飼い犬に手を噛まれる形でしてやられる。

オースティン・パワーズ』のナンバー2の元ネタですが、それも納得の悪役ぶりです。

 

 

ボンドガール:『ドミノ・ダーヴァル』

そんな悪役ラルゴを後見人として、かれの別荘でで暮らしていたのがヒロインのドミノでした。

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「映画を彩る」以上の役割はあまりなかったか

彼女の兄はスペクターの計画のために殺されてしまいますが、兄の死も、それによる核兵器の盗難事件ものことも知らず、ましてや黒幕がラルゴだとは夢にも思っていない、ドミノはとことん一般人です。

その彼女がボンドから兄の死を知らされ、復讐を遂げるというストーリーラインですが、話の本筋に関わるスペクター・ナンバー12の方が「悪の魅力」で存在感があった気がしますね。

 

 

『死ぬほど飲んじゃって』

核兵器をめぐる諜報戦を繰り広げる一方で、少なからずユーモアも見られます。

とくに関心したのが、『死ぬほど飲んじゃって』。これ、『コマンドー』の「死ぬほど疲れてる」のオマージュ元ですかね?

 

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『死ぬほど飲んじゃって』

 

一方で、笑っていいのかわからないのが、あえて暗殺方法に「ストレッチャー暴走」を選び、サウナで仕返しされる刺客のくだり。こういうことをしているから、スペクターはボンドを仕留められないんですよねぇ。

 

じつにゆるくて、平和です。

この頃には007シリーズが年に一度のペースで封切られ、予算も作品ごとに莫大になっていって、イケイケの感じが画面からも見て取れます。興行収入的にも本作の時期は非常に好調だったようです。

 

とはいえ、この年いちばんヒットした映画はかの名作『サウンド・オブ・ミュージック』だったようで、さすがにあれほどは稼げませんよね。やはり007はシリーズとして見てこそ真価を発見できそうです。

 

 

*1:彼は『博士の異常な愛情』の印象的な円卓など、キューブリック関連作でも功績があります