短文レビュー:キングコングの逆襲(1967)邦画特撮ファン感涙の一作
ミニチュア特撮好きには感涙の一作。じつは天本英世の映画だったりする。
長年、本編を観たいと切望しながらも鑑賞の機会がなかった『キングコングの逆襲』。
Amazonの恩恵により、ようやく観ることができました。
なぜ私が『キングコングの逆襲』を観たかったかと言いますと、本作は円谷英二が手がけた最後の映画であって、とくに特撮シーンの出来ばえについて未だに語り草になっているからです。
本作についての私の原体験としては、子供の頃に見た怪獣図鑑の本にさかのぼります。
ゴジラをはじめ、たくさんの怪獣達がスチル写真とともに紹介される中、とりわけ本作に登場する怪獣達のページが異彩を放っていたのを、今でも鮮明に思い出せます。
キングコングは『キングコング対ゴジラ』の時よりも原典に近い、猿らしい体型と仕上がり。
恐竜ゴロザウルスの、生物感あふれる姿。
そして『元祖・ロボット怪獣』とも言えるメカニコングの、60年代にしてはかなり洗練されたデザイン。
どれも同時代の他の怪獣よりもリアルで恰好よく、『この映画はどうやら別格のクオリティらしいぞ』と、幼心に質感の高さを感じたものです。
<閑話休題>
そういうわけで、長年にわたって自分の中で印象を美化されていたわけですが、その上で本編を観てみたにも関わらず、期待を裏切られることはありませんでした。
当時の東宝の技術力が遺憾なく発揮されており、キングコングへの愛にあふれている、実に愛おしい作品です!
名作ぞろいの60年代東宝特撮の中でも出色の特撮
本作の特撮の素晴らしさは、とくに『スケール』と『色彩』にあると思っています。
まず『スケール』について。
本作では、怪獣達のサイズをゴジラの半分程度のサイズに設定してあります。
それによる恩恵として、ミニチュアセット自体の縮尺が非常に大きく作られています。
同じく円谷英二晩年の傑作『フランケンシュタイン対地底怪獣』でもそうなのですが、『ミニチュアはデカければデカイほど良い』という事実をまざまざと見せつけます。
また、戦車や車の存在感も素晴らしいです。
スケールが大きいがゆえに、カメラ視点よりも高めのアイレベルに砲塔があるなど巨大感があります。
戦車が広いセットの中をラジコン駆動で自在に動き回るのも、豪勢です。
ピアノ線での操演じゃないんですよ。
続いて『色彩について』。
- 序盤のジャングルの緑
- 北極の白
- 夜の東京の青い夜景
- 東京タワーの赤
と、舞台が変わるごとに色彩が明確に分けられ、設計されています。
悪女役を演じる浜美枝のファッションも鮮やかで、とことん目を楽しませてくれる映画です。
あまりにも、あまりにも、天本英世
ところで正直なところ、本作のストーリーは凡庸だと思います。
安っぽく、ありがちな設定だらけだと言われれば、返す言葉もありません。
その気になれば、いくらでもツッコミどころが見つかることでしょう。
しかし、『キングコングの逆襲』の本編パートは、天本英世なくして語ることはできません。
彼の演ずるのは、悪の天才ドクター・フー。
(時空を旅しながら転生を繰り返す異星人にあらず)
役柄からだいたいお察しの通り、水を得た魚のごとき怪演を魅せてくれます。
けっこう怪獣バトル成分が多めの映画ではあるのですが、特撮パート以外の印象は8割がた天本英世の悪役オーラあふれる笑顔で埋め尽くされること、間違いなしです。
この笑顔の前では、ツッコミどころなど些細なことではないでしょうか。
私はそう思います。
全体的に、着ぐるみ&ミニチュアの特撮映画を愛する人には、間違いなく必見の作品とオススメできる一作です。
気楽で、目にも楽しい娯楽作。それ以外の価値を求めるものではないし、そんな必要も無いのです。