『犬神家の一族(1976)』名作を今更ちゃんと観てみたら、やっぱり名作だった
『犬神家の一族(1976)』
市川崑&石坂浩二コンビの「邦画屈指の傑作」と語り継がれる名作を今更観てみたら、やっぱり名作だったという話
映画好きを自称するとき、必須科目のような『名作中の名作』といわれる映画というものがあります。
それらはもちろん良い映画なのでしょうが、名声が高ければ高いほど、あえて避けて通ってしまうアマノジャクな心、おわかり頂けますでしょうか。
いや、そんなのはただの言い訳、負け惜しみですね。
事実、私はこれほどまでに面白い映画を、今まで見過ごしてきた
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私が市川崑監督の名前を知ったのは、子供の頃にケーブルテレビで見た『木枯らし紋次郎』で、アバンタイトル前に浮かぶ「市川崑劇場」の文字によってでした。
木枯らし紋次郎には、それはもう、ハマりました。なんて格好いい番組だろう!…と惚れ込んだのです。キャラクターもさることながら、番組のもつ雰囲気、画づくり、演出に感動しました。
他の時代劇に比べてもザラザラとして、光と影のコントラストが強い画面。
汚れや生活感のあふれた感じの、寂れた宿場町のリアルな風景。
急にスローモーションになったり、コマを静止させたり飛ばしたりといった奇抜な演出。
とくにオープニングでの、ギターのストロークのリズムにシンクロして、山間の引きの風景から紋次郎の姿へとコマ飛ばしでクローズアップするところなんか、あまりの格好よさに打ちのめされたものでした。
<閑話休題>
いけません。この話はきりがないので、続きはまたの機会に…。
ともかく、市川崑の映像は、ずば抜けてスタイリッシュで美しい。
それは、この『犬神家の一族』においても同様でした。
なんと、頭に焼きつく画の多いことか。
美しさを堪能するだけでも観る価値がある!
その画の破壊力がすごすぎる余りに、
『不気味なマスク姿のスケキヨ』や『水面から脚だけを突き出した死体』などの名シーンが有名になりました。
それはもう、あまりにインパクトが強すぎて数多くパロディ化され、時にはギャグ扱いされるほどに。
でも、それに目を眩まされて、本編を見ないのは不幸です。
これだけ登場人物が多く複雑な血縁関係を題材にしたミステリーでありながら、決してわかりにくいことはなく、次々に新展開があって引き込んでいく感じはもう、すごい。
もともとかなりテンポの早い作品で、現代の目から見ても冗長な部分はなく、展開とギミックが満載で、飽きることがありません。
以下、ネタバレも含んだ個別感想
・タイトルロゴおよび、オープニングクレジットの文字デザインが素晴らしい!!
高い美意識を感じます。
もともと映画などの映像作品では、こういったグラフィック的な部分まで意識が行き届いていない作品が多く、グラフィックデザインをかじった人間としては居心地の悪い思いをすることもしばしば。最近の映画でも散見されるくらい常態化していますが、それを70年代の邦画が徹底してやっているのは凄い。
『太い明朝系のフォント』+『L字状に組み合わさった文字組み』は庵野監督がオマージュしまくっていることでも有名ですね。
・キャストが超豪華。
島田陽子がとにかく美しく、演技の感じも素晴らしいと思います。
出生も謎、行動も怪しいヒロインという役柄で、ともすれば『自立していないキレイどころのお飾り』とか『怪しげな性悪女』に見えてしまうかもしれないところを、圧倒的ヒロイン力でねじ伏せたという感じです。
同様に、あおい輝彦の『誠実な男前』感も徹底しています。
市川崑の『犬神家の一族』は、1976年のオリジナル版と2006年のセルフリメイク版が存在しますが、個人的にはオリジナル版が圧倒的に勝っていると思います。
その最たる要素はキャスティング。特に、この2人の俳優の差が大きいと思います。
重ねて言いたいのは、脇役が最高だということ。
石坂浩二の金田一耕助は語るに及ばず、高峰三枝子の松子夫人、大滝秀治の神主、加藤武の警察署長、寺田稔の従者など、いずれも素晴らしいです。
(金田一を脇役と言いきってしまってますが…)
・佐清に成り変わっていた静馬が松子夫人に正体を告白し『謎が解けた!こいつが犯人確定!』とミスリードしてからの、突然の『水面から脚』の場面!カッコよすぎてシビれるほかないでしょう!
何度も見返してしまう…。
魔力のある映画を見た後の幸福感に浸ることができました。
もしまだ、私のようにアマノジャクな理由で未見の方がいましたら、ぜひ観てみることをお勧めします。
今なお、新鮮な驚きのある映画ですよ。