スタートレック:ディスカバリー シーズン2 12話『影の谷を歩むとも』レビュー
タイムクリスタルが見せるパイクの運命…
敵の総力に包囲されたその時、彼は船を捨てる決断を下す
スタートレック:ディスカバリー
Season 2 Episode 12
『影の谷を歩むとも』
原題:"Through the Valley of Shadows"
- クリンゴンの聖域・ボレス
- 個人的な雑感:タイムクリスタルについて
- ルレルとタイラー、親としての愛
- 男前なリノはスタメッツとカルバーに転換点をもたらしたのか
- 意外と脆いセクション31
- パイクの悲惨すぎる未来と決意
クリンゴンの聖域・ボレス
次なる謎の信号がディスカバリーを導いたのは、クリンゴンの 聖域であるボレス星でした。
そこは、クリンゴンの政争から死を偽装して逃れたタイラーが、ルレルとヴォークの息子を『名を持たぬ子』として修道院に預け、世間から隠した場所だったのです。
『聖地ボレス』は過去のシリーズでも既出の設定です。
クリンゴンの伝承で、「伝説上の初代皇帝カーレスがいつかこの地に転生する」と予言された星であり、復活の日までその地を守るために修道院が設けられています。この修道院は宗教的施設のため、クリンゴン最高評議会とは一線を画すポジションの勢力です。
TNG『クリンゴン神カーレスの復活』では、ボレスの修道士達がカーレスのクローンを作り出し、皇帝の座につけようとする騒動が描かれました。個人的にはTNGにおけるクリンゴン観の形成を象徴するようで、非常に印象深いエピソード。
ただし、「タイムクリスタルを守る使命」や「時間の流れが異なる」といった設定は、私の記憶では今回が初出だと思います。
個人的な雑感:タイムクリスタルについて
ちょっと脇にそれますが、個人的にはこの「タイムクリスタル」 という設定はあまりイケてないと思うんですよねぇ。
たしかにタイムクリスタル(時間結晶)という言葉は最先端科学を取り入れた感があってタイムリーなのかもしれませんが、本来その意味するところは『時間の流れる早さを変えたり、タイムトラベルを可能にする便利な石』とはかけ離れた物のはずで、非常に安易なネーミングに感じてしまいます。
まるで『タイムクリスタルという名前だから時間旅行アイテムにしたよ!』という、語感だけを根拠として考えられた安直なアイテムのようです。
また、SFはサイエンス・フィクションというだけあり、『現在われわれの知る科学知識をベースに想像をふくらませて考えた発想』が王道ですが、ときに『われわれの思いもつかない奇想天外な代物』も登場します。
スタートレックはその点のスタンスがはっきりしていて、Q連続体に代表されるような訳のわからない存在も多く登場するのですが、『いかに人智を越えたように見えるものでも、まだ人類が未熟ゆえにそう見えるだけであって、未来永劫的に理解不能なものは無い』という思想が一貫していると思います。
このタイムクリスタルは『人智の及ばないもの』のようでありながら修道院に管理され資源として利用され、科学の及ばぬ単なる記号的なファンタジーアイテムにしか見えなかったのが惜しく、センス・オブ・ワンダーにつながっていないと思うのです。
以上はただの雑感なので、とうぜん大いに異論は認めます。
ルレルとタイラー、親としての愛
タイムクリスタルの守護者として登場したルレルとタイラーの息子、テナヴィクは立派に成人しており、下手をすると両親たちより年上の渋い姿に。
これは…高度なSF用語でいうところの『サイクロップス・ケーブル現象』ですね!わかります。
それにしても、ルレルもタイラーも人の親として凄いと思うのです。
ほとんど自らの手で育てることができなかった我が子のことでも、『必ず守る』という愛と気概にあふれていて、見ていて安心できます。
ルレルにとっては愛するヴォークとの忘れ形見(あえてこう呼びます)ですから、それも当然かもしれません。
しかしタイラーにしてみれば『身に覚えのない子供』であり、自らもアイデンティティが揺れ動く過酷な境遇。その上、ルレルとの愛情はもはや認識できないにも関わらず、息子に対しての保護者としての揺るぎない覚悟を見せるのは凄い。
シーズン1での登場当初は「PTSDを抱えるヒゲイケメン」としか思っていませんでしたが、回を重ねるごとにタイラーの強さを実感します。
男前なリノはスタメッツとカルバーに転換点をもたらしたのか
忘れた頃に出てきてはスタメッツのことを引っ掻き回していくリノですが、今回はカルバーとの関係に介入してきました。
とっつきにくい曲者のようでいて、けっこう世話焼きなんですねぇ。
自らも同性の恋人を戦争中に亡くしたと語る彼女の言葉は、カルバーに届いたのでしょうか。
一方で、カルバーもそんなことは百もわかっていて、過去を振り切り自分の人生を歩もうと決意したところでしたので、余計なお節介という気もしてしまいます…。
何にせよ、スタメッツとカルバーがそれぞれ幸せに生きていければ何よりなのですが。
意外と脆いセクション31
しかし、セクション31はコントロールの侵攻に対してまったく無力・無抵抗ですね。
本来彼らは、理想主義的な連邦の中にあって『高い危機意識をもって連邦存続のために汚い仕事を厭わない存在』だったはずですが、今シーズンの問題はすべてセクション31の自業自得状態というのが、なんとも。
30隻もの先進的技術を搭載した船を所有していながら、何という体たらくでしょう。
のちにセクション31はDS9での描写のように公には存在を隠し、おおっぴらに活動することを避ける組織になっていったわけですが、もしかするとこのときの大失態に対する教訓として方針転換したのかな…などと妄想してしまいます。
パイクの悲惨すぎる未来と決意
さて、今回TOSのファンはけっこう驚愕したのではないでしょうか。
何しろ、パイク船長が『例の未来』を事前に知っていたというのですから。
今シーズンではTOSのパイクの登場エピソード『タロス星の幻怪人』がフィーチャーされていますが、今回はその極めつけと言えるでしょう。
『タロス星の幻怪人』におけるパイクは、今回タイムクリスタルの力で幻視していたように、再起不能の見るに堪えない姿になってしまっていました。
話すことも、一切の感情をあらわすこともできず、ただランプの明滅によって「YES」と「NO」の意思を伝えるのみ。
船長時代の精悍なパイクの姿を知っていればこそショックの大きい描写なのですが、まさかパイク本人が己の末路を分かりつつ、その上で未来を選択した結果だったとは。
覚悟を決めるパイクの姿が非常にかっこよかったですね。
未見の方は『タロス星の幻怪人』の視聴をおすすめします。
(ネタバレのリスクがあるので、ディスカバリーのシーズン2終了を待ったほうがいいかもしれませんが…!)
ところで少し気になったのですが、今回のパイクの行動によって『パイクの未来が確定化した』ということは、同時に『全知覚生命の絶滅の危機は回避されるという未来も確定化した』とは言えないでしょうか?
パイクが再起不能になる事故はディスカバリーから10年も先の出来事のはずで、自動的にそれまで艦隊も健在ということになりますので。
今回、パイクが自爆というリスクを大胆に冒すのも、そのことを分かっていて、救われる未来を確信しているからこそ…というのは深読みすぎでしょうか。
いずれにせよ、次回はスタートレック伝統の『自爆の危機』から始まることが確定で、じつに楽しみです。
ディスカバリーの自爆は成るんでしょうか。次回を楽しみに待ちましょう。
本ブログのディスカバリーの各話レビュー はこちらから。
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スター・ウォーズについても書いています