カワサキ ER-6f('07) インプレ 『ニンジャ』を名乗り損ねたコスパ最強の大型バイク
私の乗り継いできたバイク紹介シリーズ、今回でとりあえず最後になります。
前回までのバイク遍歴インプレシリーズはこちら
かくして大型バイクの世界へ
さて前回は、エストレヤRSを愛しながらも、より大きな排気量のバイクへ乗り換える決意をしたところまででした。
となれば、人のサガとして『大型二輪』、すなわち排気量401cc以上のバイクに乗りたい気持ちになるのが人情というものです。
なぜなら『排気量』というのは、バイク乗りの世界では大変重要な意味を持つからです。
どのくらいの重要度かというと、あるバイクについて話す時、そのバイクが「排気量何ccなのか」という話題を避けて通ることは不可能に近いくらいです。
その要因は色々あります。
我が国では免許の区分も、車検の有無も、速度や通行規制などの交通ルールも、排気量が基準となっていることが真っ先に挙げられるでしょう。
くわえて、歴史的には国内での排気量規制が敷かれていた過去があったり、昔は大型自動二輪免許の取得難易度が高かったりした、という経緯もあります。
その名残として、今日でもバイク乗りの界隈では大排気量車をもって小排気量車にいくらでもマウントがとれてしまう、謎の風潮があります。
実際、内燃機関の生み出すエネルギーの総量は排気量に拠るところが非常に大きいのは確かですから、『大型のほうがパワーがあって高級でエラい』というのは間違いではありません。
しかし、たとえば250ccであってもお金のかかった作りのバイクもありますし、大型の中でもお手軽な車種もあるのです。
そして私の選んだのは、大型バイクの中で驚くべきコストパフォーマンスを誇るバイクだったのです。
カワサキ伝統のパラツインを受け継ぎし者
まずはER-6fというバイクについて紹介しましょう。
カワサキの大型バイクで、排気量650cc。
最大パワーは72馬力/8,500rpm。
レッドゾーンは11,000rpmからです。
ER-6fの出自を語るには、その先祖である『GPZ500S』、別名『ニンジャ500R』について触れたいところです。
GPZ500Sは海外では手頃でスタンダードな足バイクとして、ロングセラーを誇った車種です。
カワサキは『中間排気量において並列2気筒(パラツイン)がベストなエンジン型式だ!』という一種のポリシーを持っているんですが*1、そのパラツインの系譜における元祖がGPZ500Sで、ER-6fもそれを受け継いでいます。
このパラツインはじっさい優れたエンジンで、街中で流す程度のスピードでも粘りがありつつ、回そうと思えばスムーズに回ってくれる万能なキャラクターを持ちます。
低回転では「ドコドコ」という感じのツインらしい音ですが、ひとたび回すとマルチのような唸りをあげて10,000回転以上まで吹け上がり、5,000回転以上では非常になめらかです。
街乗りでもツーリングでも快適で、公道で常識の範囲で走る上では何ひとつ不満のないエンジンだと言えます。
さらに4気筒よりもスリム・軽量であり、燃費も排気量の割には悪くありません。
ほかに構造的な特徴としては、
- フレームと一体化するかのようにナナメに配置されたリアショック
- 腹の下に収まり、リアタイヤの前で開口しているマフラー
という2点が挙げられます。
リアショックとマフラーがボディに収まっている為、リアタイヤの周りに何もなくスッキリしています。後ろから見るとものすごくスリムな印象を受けます。*2
これらの特徴はマスの集中化に役立っており、近年の流行でもある「ストリートファイター」と呼ばれるタイプのバイクに採用されがちです。
もともとER-6はフルカウル仕様の「f」に対してネイキッド版の「n」という兄弟車があり、こちらはストリートファイター系のバイクだったりします。
ストリートファイターにとっては、軽くてマスが集中し、かといってシート高は高くなりすぎないこの構造が有利なのかもしれません。
「f」は「n」にカウルをかぶせたスポーツツアラー的なモデルと言えますが、両者の違いはカウルの有無だけではなく、「f」の方が微妙に車高が高く、ホイールベースもちょっとだけ長めになっています。若干、ツアラーっぽい性格付けなのでしょう。
さらに兄弟車にはもう一台、「ヴェルシス」がいます。
こちらはアルプスローダーですね。
3兄弟の中では唯一ペットネームつきで、人気があり中古相場も高いです。
なぜ、ER-6fなのか
ところで、私がER-6fを選んだ理由はいくつかあります。
- デザインがユニーク(格好いいとは言っていない)
- アナログメーター装備
- コストパフォーマンスが良すぎる!
これらの点を紹介していきましょう。
1.ユニークなデザイン
ER-6fは、おせじにも正統派のかっこよさを持ったバイクとは言えません。
フルカウルではありますがSSのようなシャープさがなく、どちらかというとZZ-R1200を思い出させる柔和なツアラー的デザイン。
フレームは鋼管パイプで、スイングアームもやる気のない角材です。
とても洗練された格好いいバイクとは思えません。
しかし、ER-6fのデザインが部分的に私に刺さってしまう理由として、往年のツアラー、ヤマハ・ディバージョンの存在があります。
ヤマハ・ディバージョンといえば、最近まで販売されているXJ6が知られていますが、90年代にはその前身となる空冷4気筒のツアラーシリーズが販売されていました。
私はこの旧ディバージョンが好きで、派手さはないがシンプルで流麗なカウルをもつツアラーという感じがたまらない。そういう意味で、ER-6fに通ずるものを感じてしまいます。
また、ER-6fのヘッドライトは1つ目ですが、中に2つの丸いライトが仕込まれています。
そう、ちょうど往年のヤマハの名車、FZ750のように。
…さすがにこじつけ過ぎでしょうか?
まあ、それでなくても昔の耐久レーサーには1つ目・2灯が結構多かったので、現代的なツリ目の2つ目より親しみを覚えるデザインなのは確かです。
2.アナログメーター装備
見てのとおりです。2000年代後半に出た車種なので、アナログメーターの採用はただただ、ありがたいばかり。
3.コストパフォーマンスが良すぎる!
ER-6fは中古価格も非常に落ち着いています。
乗り出し40万を切るケースもあるくらいです。
しかしインジェクションで信頼性は抜群。
私の乗っている間、故障の類は一度もありませんでした。
さらに、燃費も大型スポーツバイクの割には悪くありません。
20km/lを切ることは稀です。高速ツーリングの比重が高ければ、さらに伸びるでしょう。
お金を節約しつつ大型バイクの利点を手に入れたいのであれば、これほど優秀なバイクはありません。
まさに『虚栄心以外のすべてが手に入るバイク』です。
『ニンジャ』を名乗れなかった運命と、売れっ子の子孫たち
さて、このように多数の長所があるER-6fですが、残念ながら人気車種とは言えません。
しかし、ER-6fの後継機はけっこうな人気車種となっています。
そう、ご存知『ニンジャ650』です。
私のER-6fは最初期型のモデルで、のちに2度ほどモデルチェンジをしています。そして、2011年からの国内正規販売モデルは『ニンジャ650』の名で売られるようになったのです。
ニンジャの名を冠するとともにルックスもみるみる近代的になり、イケメン化を遂げました。
見ての通り、パラツインや腹下マフラーなどの大枠は受け継ぎながらも、印象的にはまるで別人になっています。
そして「ER」という世間的にピンと来ない名を捨て、知名度抜群の『ニンジャ』の名を冠したことで一気に垢抜けて、人気となりました。
逆に言えば、中身はだいたい同じでも、少し世代が早かったゆえにニンジャの名を名乗れなかったのがER-6f・・・という言い方もできるわけです。
しかも、さらに追い打ちをかける事実があります。
初期型ER-6fにとても似たデザインなのに、最初からニンジャの名をもらっていた『ニンジャ250R('09~)』まで存在するのです。
しかも人気車種で、250ccフルカウルスポーツ復権の立役者として評価される名車あつかいされている始末。
このようにタイミングの問題で、ER-6fはネームバリュー的にも不遇を囲ってしまっていますが、機能的には本当に良いバイクなので、そのことを声を大にして言いたい。
ER-6f インプレッション
さて、そろそろ語るに落ちましたので、前回までのフォーマットに則って簡単なインプレッションをば。
◎良い点
- 高速も下道も、ツーリングに余裕で対応するパワー
- フルカウルの恩恵で高速は楽々
- 回しても、回さなくても楽しい二面性のエンジン
- トルクフルで街中でも扱いやすい
- 軽量でスリム(車重はだいたいCB400SFと同程度)
- バーハンドルで腰痛持ちにやさしい安楽ポジション
- 幅広タンデムシート&グラブバー装備で二人乗りは得意
- 車体価格、燃料費が安くあがる
◎悪い点
- 所有欲を満たしたり、他人に自慢することは諦めるべき
- 峠に行っても大型だからと見栄を張ることはできない
- 加速性能、コーナリングともSSには到底かなわない
- サスが固めで高速での段差は痛い
- 都内では駐輪場所に苦労する(中型以上のバイク共通)
- 車検の金銭的負担(400以上のバイク共通)
うーん、一応ひねり出して書きましたが、悪いところはあまり思いあたりません。
欠点はあるにしても、どれもER-6fを購入する人は最初から割り切っているであろう点です。
バイクに所有感を求めたり、所持していることをステータスとして誇りたいのであれば、ER-6fはまるでオススメできません。
峠の駐輪場で注目を浴びたい方は別のバイクを買って下さい。
逆に、『ただ走るのが好き』、『気楽にツーリングに出かけたい』、『高速で楽に走りたい』という方には、まったく不足なく応えてくれると思います。
夢の終わり
さて、私のバイク遍歴を紹介してきたこのシリーズも今回で最後。
どうして長々とこんな文章を書いたのかと申しますと、まさに今、ER-6fを手放そうと考えているからです。
というのも、結婚し家庭を持ってからはじめての車検を迎えることになり、よくよく考えた結果、『これ以上大型バイクを維持するべきではない』という結論に至ったからです。
大型バイクに乗り、新天地でツーリングを楽しむというのが長年の憧れでもありましたので、その最適解として購入したERを手放すというのは、夢の終わりとして寂しく思います。
妻も元バイク乗りなので趣味としては理解してくれているのですが、これは私なりのけじめという奴です。
上京してから大型免許をとり、ERに乗って奥多摩を走り、九十九里を走り、箱根を走り、ヴィーナスラインを走りました。
一度だけ千葉で釘を踏んでパンクの憂き目にあったことはありましたが、それ以外はなんの不安も不満もなく、ERは応え続けてくれたものです。
完全にバイクを降りるかどうかは未定なのですが、一つの青春の終わりを記録しておこうと本稿を書いた次第です。
同じ車種の購入を考える皆さんの参考になれば幸いです。
前回までのバイク遍歴インプレシリーズ