スタートレック︰ディスカバリー シーズン1 8話『汝、平和を欲するなら、戦いに備えよ』レビュー
動き出した本筋、クリンゴン戦争のエピソード。
しかし、やはりこのクリンゴン達は「コレジャナイ」感を拭えない。
スタートレック:ディスカバリー
Season 1 Episode 8
『汝、平和を欲するなら、戦いに備えよ』
原題:"Si Vis Pacem, Para Bellum"
【本記事は視聴済みの方向けのレビューです。ネタバレを含みます!】
今回は、ストーリーがディスカバリーの本筋、すなわちクリンゴンとの戦争へと戻りました。
たぶん世界でも少数派だったであろう『コーンウェル提督の安否を気にしていた人間』としては、胸をなでおろした次第です。
クリンゴン内の政争の結果、実権とともに死者の船を乗っ取っていたコル。
彼はクリンゴンの家々に対し、遮蔽装置の貸与と引き換えに自分への恭順を求め、着々と勢力を拡大しつつあるようです。
トゥクヴマ派の生き残りである女司令官ルレルは、コルに対して表面的には従いつつも、捕虜になった連邦のコーンウェル提督を利用して連邦への脱出を図ります。
一方、ディスカバリーはクリンゴンの遮蔽装置に対抗のため、ある惑星にサルー、マイケルそしてアッシュの3名からなる上陸班を派遣しました。
…というように、クリンゴン側の話と上陸班の話が並行するエピソードでした。
気になっていたクリンゴンの内情がわかり、『遮蔽装置をなんとかせねば連邦は苦戦必至』という事情も示されて、一気に本筋の話が進みました。
エピソード自体は面白かったのですが、今まで以上に感じるのは『クリンゴン達のコレジャナイ感』。
後で触れてまいりますが、基本ディスカバリーを楽しんで見ている私でも、この点に関してだけは憤懣やるかたないのです…。
以下、個別の感想点。
・クリンゴンがどうにもコレジャナイ感の件
私は毎週ディスカバリーを観て楽しんでいますが、それは
『今までのシリーズの外伝的な位置づけで、異色の作風と新鮮で挑戦的な要素が盛り込まれていることが魅力の作品』
…という風に自分の中で位置づけしているからです。
しかし、ディスカバリーはあくまでも「スタートレック正史の世界線」の中での話という前提がありますので、正史の作り上げてきた世界観を損ねるのであれば、その点は批判対象となります。
この1,2話を視聴した時点の記事でも書いていますが、ディスカバリーにおいてとくに正史シリーズとの整合性を欠いているのは、クリンゴン関係の描写だと考えています。
上の記事では『クリンゴン達の外見が他シリーズと著しく異なるだけでなく、華美な装飾デザインによって彼らの文化性までも変えてしまっているように見える』ということを書いておりました。
で、今回はそれに加えて、さらに『遮蔽装置』という危険ワードが入ってきてしまいました。
今回クリンゴン船がこともなげに遮蔽装置を使っており、コルがそれを供給していることになっていますが、遮蔽装置はもともとロミュラン発祥の技術です。
『クリンゴンが遮蔽装置を使用するようになったのは、2280年代にロミュランと同盟関係になってから』…というのが今までの定説です。
そのロミュランは、2260年代のTOSの時代まで完全に謎に包まれた種族という扱いでしたから、2250年代が舞台となっているディスカバリーに当たり前のように登場しているのはおかしいことになります。
これは現在のところ、大きな不安要素です。
『死者の船』(正式名称「サルコファガス」というらしい)は1話から遮蔽装置らしきもので身を隠していました。
英語版のメモリーアルファによると『トゥクヴマが遮蔽装置を開発した』という風に書かれていたのですが、クリンゴンが独自で遮蔽装置ほどの高度な装置を開発したとなるとまた違和感が出てきてしまいます。
クリンゴンには『敵に見つからずに忍びよる』という器用な発想自体、自力では思いつかなそうなイメージなので。(見くびりすぎか)
それならむしろ、『トゥクヴマないしコルがロミュランと何らかの関係を持っていた…』というような陰謀劇や、『ロミュランからクリンゴンの政局をコントロールするために遮蔽装置の横流しがあった』という展開のほうが面白そうな気もします。タル・シアーの匂いがしますね。
『死者の船』といえば、その存在自体が私的には違和感バリバリです。
1話からクリンゴン側のメイン舞台として登場しており、船体の表面に多数のクリンゴン戦士の遺骸を納めた棺がくっついている船です。
従来のクリンゴンというのは、戦士が死んだ時、その魂が彼らの天国(スト・ヴォ・コー)に行くことを最重要視していました。
戦友の死を看取る儀式もあり、それはディスカバリーでも2話で観られたように『亡き戦士の目を見開かせ、天を仰いで吼える』というもので、これで戦士の魂を英雄カーレスの元へ送り出します。
一方、クリンゴンは魂を重視する半面、死後の肉体は『ただの容れもの』だとして全く執着しないので、クリンゴン社会では解剖学がほとんど発達しなかったという設定がありました。
この文化からすると、死者の船が後生大事に戦士の遺骸を保管しているのは奇妙に感じます。
そもそも死者の船というのは、クリンゴンの信仰において戦士の魂が死後に天国に行くか地獄に行くか決まるまでの間に乗るとされている船のことのはずで、いわゆる三途の川の渡し船みたいなものでしょうか。
戦士が名誉をもって死ねば天国(スト・ヴォ・コー)、そうでない場合は地獄(グレトール)に行くと言います。
そういう信仰上の名前を実際の船に異名としてつけていることに多分意味があるんでしょうけども。今のところスッキリしない気持ちを抱えています。
・ルレルが良いキャラの件
今回は、コルに陰で反目するルレルの出番が目立ちました。
一度はコーンウェル提督をダシにして連邦へ脱出しようとしていた彼女ですが、仲間の犠牲を目にして思いとどまり、コル派の内部から復讐の機会を狙うことにしたようですね。
ただ連邦のイケメンを捕まえて虐めていただけの人ではなかったのですね。
これほどルレルのトゥクヴマに対する忠義が本物だとすると、ヴォクの所在が気になるところですが…。
・アッシュ=ヴォク説
アッシュは実は、地球人に擬態したヴォクではないのか。
今回のルレルの挙動をあわせると、この説ががぜん、浮上してきてしまいますね…。
- ルレルがアッシュを気に入って、捕虜の彼を生かしていたと語られたこと
- アッシュが普通では耐えられないような環境に7カ月もいて、大した手傷や後遺症を負っていないこと
- アッシュが最初からマイケルに好意的で、急接近していたこと
これらのことから、アッシュに不自然な点があるのは確かです。
ルレルがクリンゴン内で立場をなくしたヴォクを助けていた描写はありましたから、
彼女の支援のもとでヴォクを整形して地球人の姿に似せ、意図的にロルカと同じ独房に入れておいたと思えば、けっこう辻褄があってしまうんですよね。
ロルカは当然、脱出時に彼をディスカバリーへ連れ帰るでしょうから、ルレルとしては秘密の装備をもった連邦艦であるディスカバリーにスパイを送り込むことができるという訳です。
「クリンゴンが整形して地球人のような外見になり、連邦内に潜入している」というのはTOSでは前例があります。
(※かの名作『新種クアドトリティケール』など!)
ヴォクことアッシュがディスカバリーを破壊ないし、マイケルの首をクリンゴンに持ち帰れば、トゥクヴマ派の復権もできるだろうという話です。
今のところアッシュは好きなキャラなので、この説は当たってほしくないのですが。
でも万一そうなら、ぜひトリブルに正体を暴かれてもらいたいという期待も一抹。
・スタメッツの躁鬱が激しい件
クマムシは胞子ドライブの連続使用で負荷がかかりすぎ、休眠状態に落ち込んでしまっていましたが、スタメッツにも同じように身体に負荷がかからないのかと心配でした。
やっぱり影響が出始めている模様ですね。
コミュ力のあるティリーの切り込みも凄いですが、スタメッツは自分の異常は感じていつつも、愛するカルバーのことを思って、彼に打ち明けられずにいる。
スタメッツ、本当に良いキャラですねぇ。
ティリーを船長と言い違えるシーンなどを見ると、スタメッツは過去や未来、もしくは違う並行世界を同時に観ている感じなのではないでしょうか。
(※これを専門用語では、『Dr.マンハッタン現象』と呼びます。)
・サルーにいいとこなしの件
ダグ・ジョーンズのファンであり特殊メイクキャラが好きな私としてはサルーにもっと活躍してほしいのですが、今のところ彼の活躍シーンは トータルで見ると不利にしか働いていないものばかりですね。
今回もケルピアン独特の超感覚や凄まじい身体能力を発揮する場面こそありましたが、全体では連邦サイドの足を引っ張った結果になってしまいました。
種族独特の『常に恐怖と無縁ではいられない』という事情が最後の最後で明かされたのはフォローになりましたが、どうにも優秀すぎる他のメンバーに置いていかれている印象。
できれば彼の長所を生かした活躍が観たいところです。
・パーヴァンという不思議生物
英語表記では、パーヴォの住人ですから『パーヴォニアン』だそうです。
サルーの語る内容からして、アバターでいうところのエイワみたいなものでしょうか。
集合意識なのか、個人の概念があるのか不明ですが。
こういう平和的な種族を宇宙戦争に巻き込んでしまうのは心苦しいですね。
・今回のコーンウェル提督
『叫び合戦』で見張りを騙し、ルレルに脱走をもちかけられた提督。
しかしコルに脱走風景を見られてしまい、ルレルからボコボコに。
最後にはコルが『提督に逃げられた』と言っていたので、たぶん死んではいないのでしょうが…。
踏んだり蹴ったりですね。提督には報われてほしい。
実際のところ提督が帰還することで、ロルカ船長の解任という話も再燃するわけで、その辺も気になりますね。
・今回の毎週連続放送があと1話 の件
毎週観てきたディスカバリーですが、次回の9話で一区切りを迎えるそうです。
シーズン1はまだ続きますが、来年1月からの再開になるとのこと。
TVの放送枠に縛られない配信形態ならではと言えましょう。
今までよりもスケジュールに余裕がある分、作り込んでいくということらしいので今から楽しみです。
すでにシーズン2も制作決定していると聞いています。
9話がいかに期待をもたせてくれるか、楽しみです。
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