カワサキ エストレヤRS インプレ レトロ趣味を全力で楽しむバイク
さて、引き続き3代目の愛車『エストレヤRS』について語ります。
前回、前々回はこちら
前回までのあらすじ:
『もっと大きいバイクに乗りたい病』が発病した
さて、原付を乗り継いだ末に『もっと排気量の大きいバイクに乗りたい』という妄執に捕らわれた私は、125cc~400cc、いわゆる中型バイクを欲しがるようになりました。
なぜ排気量を大きくしたかったか。
『私のバイクの楽しみ方』を東京で実現するには、高速道路を使わねば、どうにもならないケースが多かったからです。
そもそも、バイクの楽しみ方というのは十人十色。
一口にバイク乗りとは言っても、実態は皆がまったく異なる価値観でバイクを愛しているものです。
『速く、上手く走るのが好き』という人もいれば、
『仲間とユニフォームを着て集まるのが楽しい』という人もいますし、
『観光・温泉・蕎麦が目的のツーリング』が好きな人、
はたまた『走るよりもカスタムやレストアが好き』という人まで。
私の場合は、バイクの魅力は『自由さ』だと思っています。
気ままに、行き当たりばったりで遠出するのが好きです。
自然豊かな場所や見知らぬ土地に行き、景色や空気感を楽しみながら、ただただ走ります。
寄り道はほぼしません。
ひたすら走り続けるだけ。
ただ自分のペースで気持ちよく走りたいだけなので、他の車やバイクに気を遣ってペースを変えることもなければ、速さで負けじと競うこともありません。
東京でそういう楽しみ方をするには、郊外の山や近県まで出掛けるしかありません。
なにしろ関東平野は広くて交通量も多く、しょっちゅう信号に邪魔をされるからです。
下道でそういう場所に行こうと思ったら、行って帰ってくるだけで非常に時間がかかってしまうのです。
『気軽に乗れて、高速も使えるバイク』が必要でした。
エストレヤについて
さていきなりですが、カワサキ エストレヤは『小排気量のレトロ趣味バイク』としては、間違いなく先駆者だと思います。
というのも、今でこそエストレヤは「レトロ系の中ではロングセラーでド定番」なバイクだったと評価されていますが、登場した当初はかなり「攻めた」車種だったに違いないからです。
ここでいう「攻めた」というのはもちろん「性能がすぐれている」という意味ではなく、『レトロさを趣味嗜好として味わうことに特化したバイク』というコンセプトが、(エストレヤの発売当時においては)攻めていたという意味です。
エストレヤの登場した92年というのは、まだ80年代のレーサーレプリカブームの影響が濃厚な時代でした。
馬力など数値上のスペックや、レース車を意識した豪華装備*1がもてはやされていた時期*2でした。
そういった市場の中で、
『バイクは速いだけが能じゃない』
『あえて空冷で昔ながらの世界観を楽しもう』
ただ、ゼファーは確かに当時としては古めかしいバイクではありましたが、私が思うにはいわゆる「レトロ趣味のバイク」ではありません。
ゼファーは『70年代のZやCBなど、世界に誇る性能をもっていた日本の名車』的なイメージをモチーフにしているので『なつかしのスーパーカーの面影がある現代のスポーツカー』みたいなものです。
懐古的ではありますが、モチーフ自体がすぐれた性能を持っていた名車であり、ゼファー自体の走行性能はちゃんと確保されています。
少し脇道にそれますが、よくゼファーについて「重い」「パワーがない」という評判を耳にします。
しかし、そこは空冷とはいえDOHC4気筒。
普通の乗用車など相手にならないレベルの走行性能があるに決まっています。
ゼファー以外のバイクが公道ではオーバースペックすぎるだけで、ゼファーそのものは決して遅くはないのです。
という訳でゼファーは、『古きよき時代を偲び、レトロさそのものを味わう』という価値観からすると『レトロ趣味バイク』とはちょっと違う気がするんです。
そんな状況の中、カワサキが次に打ち出した車種こそが、エストレヤ。
これこそが真の『レトロ趣味バイク』の決定版だと言わんばかりのバイクでした。
『真のレトロ趣味バイク』の矜持
エストレヤの凄さは、とことん趣味性の強いデザインと、作りの重厚さにあります。
まず『とことん趣味性の強いデザイン』について。
エストレヤの外観は、カワサキの二輪部門のルーツのひとつ「目黒製作所」が発売していた50年代末~60年代前半のモデルに非常に近いイメージのデザインです。
現代的なアレンジは極力避けられ、メーカー純正として徹底したレトロ趣味が貫かれています。
- 各所に施されたクロームメッキ
- 古きよき、前後分割のサドル風シート(初期はタンデムシートすら無し)
- レトロ風デザインのために新設計されたロングストロークエンジン
- リアドラムブレーキ
- タコメーターや燃料計など、現代的&実用的な装備は省略
このわざとらしいレトロ感!
レトロ趣味そのものを付加価値にしているという点で、エストレヤはゼファーの比ではありません。
『いやいや、レトロバイクなら、エストレヤ以前にSRがあっただろう』という指摘もあるでしょう。
たしかに、当時すでにヤマハSR400・500は販売されてました。
しかし、SRは70年代からそのままの形で販売継続しているうちに時代に取り残され、結果的にレトロバイクになった車種なので、『レトロさを楽しむことを目的として設計されたバイク』ではありません。*4
同じ理由で、ロイヤルエンフィールド・ブリットなども対抗馬になりえません。
次に、『作りの重厚さ』について。
現代のバイクは基本的にFRP製の外装をもつことが多くなっていますが、エストレヤはとことん『金属』でできています。
それはもう、サイドカバーやライトケース、チェーンカバーといった細部にいたるまで。
他の車種なら、たとえばレトロ風なアメリカンバイクであっても、サイドカバーはFRP製だったりするところです。
軽量化、コストダウン、安全面など、理由は色々あるのでしょう。
しかし、とくにメッキパーツに関しては、プラと金属では質感が明らかに違ってしまいます。
現に、ドラッグスター400などはメッキのクランクケースの一部がFRPで、質感が安いとして残念ポイントと言われることがあります。
そこをエストレヤはあえて「金属」にこだわり、美しく重厚なメッキを施しているのです。
このことに代表されるように、250ccという小排気量にもかかわらず、エストレヤにはあからさまに安っぽく見える点がほとんどありません。
その結果、車重は250cc空冷単気筒としては重い部類になります。
元からパワーが非力なのに重いものだから、『ファッションだけのバイク』『女子供の乗るバイク』などと貶されることもしばしばですが、結果はこれだけのロングセラー。
エストレヤRS インプレッション
さて、いい加減にインプレッションに移ります。
私の愛車だったエストレヤは『RS』というバージョンでした。
無印エストレヤとの違いは、
- シートが前後分割サドルシートでなく、ロングシート
- ブレーキが前後ともにディスクブレーキ
…というものです。
ようするに、エストレヤに若干のスポーツ感を加えたモデルですね。
さて、例によって良い点と悪い点を挙げていきましょう。
◎良い点
- 美しい外観が、どの風景の中でもよく映える
- 所有感があるので、洗車が幸せ
- 排気量のわりには鼓動感があり、流しているだけで楽しい
- 燃費は良好(リッター30kmをほぼ割らない)
- 航続距離も十分(400kmくらい走る)
- 低回転からトルクがあり、一般道で走りやすい
- センタースタンドが標準装備
- (他の250ccと比べなければ)軽くて取り回しがよい
◎悪い点
- 高速ではエンジンがすぐに頭打ちになる
- コーナリングの時、フレームのしなりが気になるときがある
- シートが低すぎ、ポジションが窮屈
- メッキやスポークホイールの手入れが手間
- ギアが5速しかない。そして5速だけ離れている
- 私の個体は、キャブレターの不具合に度々泣かされた
総じて、趣味性においてはまったく不満はありませんでした。
なによりルックスがいいし、心地よいエンジン音と扱いやすいパワー感で、マイペースで走るには打ってつけでした。
反面、『ポジションが窮屈』というのは由々しき問題で、長時間走りっぱなしの乗り方をする私にとっては、疲労度に直結していました。
また個体差だとは思いますが、キャブレターの不具合には本格的に困りました。
走行中にエンジン停止して走れなくなったことも何度かあり、そのたびに何度も修理に行ったり来たりしたものです。
タンデム旅行中のエンジン停止が、妻のトラウマになっているくらいです。
(最終的に、タンク内のサビがひどくてキャブレターを塞いでいたことが原因らしいことがわかり、徹底清掃とコーティングをすることで治ったものです。前オーナーの手入れが悪かったというオチ。)
また、『高速に乗れる』のは確かだったのですが、なにぶん空冷単気筒機ですので、本当に『乗れるだけ』という感じでした。
一応言っておきますが、走行車線を巡航するには問題ありません。
坂道などで回転を上げると、不穏な振動がハンドルに伝わってくるのでちょっと怖いというくらいです。
以上のことから、非常に好きなバイクではあったものの、私の用途に使うには若干、たりないものがあったことは事実です。
エストレヤには世話になりましたが、たりない部分を補えるバイクへの乗り換えを、数年後に決断することになります。
すなわち、
『もっと高速走行が楽で』
『もっとパワーがあって』
『もっと大柄でフレームのしっかりした』
そういう車種を求めるようになったのです。
という訳で、次回はいよいよ4代目にして現在の愛車『ER-6f』について語ります。
この無駄に長ったらしい物語も終わりです。
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