スズキ コレダスクランブラー インプレ ジウジアーロと2ストの織り成す、古きよき工業製品
前回に引き続き、2代目の愛車の話をしましょう。
前回 ヤマハYB-1 Fourについてはこちら
さて、初めての愛車YB-1を手放した私は上京し社会人となり、そして通勤用バイクを買おうと思い立ちました。
当時の通勤路は東京の西部で14~15kmほどの距離。
シンプルで、安価で、YB-1 Fourよりは速いバイク…ということで見つけたのが、『スズキ コレダスクランブラー』でした。
コレダスクランブラーというバイク
どうですか、この独特のスタイル。
じつは、未だにルックスに関しては最高に好きなバイクです。
このバイクの素性について説明するには、スズキが1967年に発売したビジネスバイク『K50』*1から始める必要があります。
長年ビジネス車として販売されたK50。
それをベースに、90年代半ばになってからスポーツ風モデルが誕生しました。それが『コレダスポーツ』です。
そして、コレダスポーツの「スクランブラー風」の派生車種という位置づけで発売されたのが『コレダスクランブラー』というわけです。
スクランブラーとは何か?
『スクランブラー』というと、今ではトライアンフやドゥカティの発売している特定のモデルの名前として知られていますが、本来はバイクのジャンル名を指していました。
1960年代以前、まだバイクに『オフロード専用車』が無かった時代、オフロードレースの黎明期に使われていた言葉です。
当時は、オフロードバイクという概念そのものが無かったため、「既存のロードスポーツバイクをオフロード向けにカスタム」することで何とかオフロードに対応させており、そういうバイクのことを『スクランブラー』と呼びました。
元がロードスポーツ車なので、オフロード用とは言っても部分的な改造にとどまります。
スクランブラースタイルの特徴としては、
- 高い位置に取り回された、ヒートガード付きのマフラー(小石や泥がサイレンサーに入らないように高い位置に開口)
- やや幅広なハンドルバー
- ブロックパターンのタイヤ
- フォークブーツ必須
…といったところでしょうか。
もちろん『コレダスクランブラー』にも、上記の特徴は備わっています。
しかし、スクランブラースタイルの車種をメーカー自身が純正で作ってしまうとは、90年代の市場としてみると物凄く挑戦的です。
そもそもスクランブラー自体が現代では廃れた存在ですし、レトロ趣味カスタム界隈のジャンルとしてもマイナーな方なのに、よくこんなニッチな派生車種を発売しようと思ったものです。
スズキは本当に、こういう酔狂なところが愛さずにいられない。
ご先祖様?『ウルフT90』について
『スリムで細長いタンク』、『純正でついているタンクパッド』などもそうですが、なんといっても『左出しのアップマフラー』が最大の特徴です。
実は、今挙げたコレダスクランブラーの外観については、大いに参考にされたと思われるご先祖様がいます。
その名も『スズキ ウルフT90*2』。
1969年に発売された、2サイクル90ccの名車です。
全体的なイメージが、なんとなく踏襲されていますよね。
ところでこのウルフT90、あらためて見るたびに思うのですが、あきれるほど格好いいバイクですよねぇ。ほれぼれします。
60年代のバイクとしては信じられないほど洗練されていて、デザインは傑出していると思います。
じつはこのウルフT90、巷では『若き日のジョルジェット・ジウジアーロがデザインを手がけた』という定説があります。
ジウジアーロについては、車好きでなくても映画好きであれば「デロリアンを作った有名なカーデザイナー」と言えば凄さがわかって頂けるでしょう。
ただ、このことについてはちゃんとしたソースは見当たらず、噂レベルの情報しか見つかりませんでした。
ウルフよりもう少し後の74年に発売された珍車『スズキ RE5*3』はジウジアーロ氏がデザインしたのは確かなようなので、ウルフに関しても手がけた可能性はあるとは思うのですが…。どこかに裏付け資料はありませんかね?
いずれにせよ、有名デザイナーの作品だと言われれば納得するしかない程に、ウルフが格好いいのは確かですけどね。
コレダスクランブラー インプレッション
さて、さんざんスタイルについて書いてきましたので、そろそろインプレッションを書こうと思います。
◎良い点:
- 2スト!
- 2ストなので、ビジネスバイクベースにしてはパワーがある(4.5PS)
- 2ストなので、スロットルに対するレスポンスが鋭い
- 2ストなので、エンジン音が軽快で回すのが楽しい
- 2ストなので、車体がものすごく軽い(装備79kg)
- キックスタートのみというストイック感
◎悪い点:
- 2スト!
- 2ストなので、すさまじい白煙が出る
- 2ストなので、4ストよりは燃費が悪い
- 2ストなので、こまめにオイルを補充せねばならない
- セルがない
良くも悪くも、バイクとしての評価としては「2ストである」ことが大きく影響しています。
実際のところ、最大のネックは『白煙』でしょうか。
2スト車を見たことがある方ならおわかりでしょうが、暖気のためにチョークを開けようものならマフラーから凄まじい量の白い煙が吐き出され、近所迷惑となります。
渋滞にひっかかってアイドリングしている時でも、後続車の視界を妨げるほどの煙が出ていることがあります。
でもそれ以上に欠点を補って余りあるのが、原付としては相当「楽しいバイク」であるという事実です。
もちろん、NSRなどの2stレプリカには乗ったことは無いので想像ですが、50ccでありながら『回すのが楽しい』『操るのが楽しい』という感覚が強く味わえる気がします。
街中で軽い車体をヒラヒラと操り、飛ばさなくても加速しているだけで楽しい。
見た目もユニークで、同型車は滅多に見ないので所有感もあります。
そういう意味で大変すぐれたバイクです。
とはいえ、超ロングセラーを誇ったK50も2006年に販売終了し、今や名実ともに「古いバイク」に属するコレダです。年を追うごとに排ガス規制が厳しくなり、2スト車が再び市場で人気を得る望みは絶望的でしょう。
でも、とにかくいいバイクだったんですよ。
古きよき日本の工業製品として、コレダを楽しめたことは幸運に思えます。
さて、コレダスクランブラーは上京当初の通勤手段として、そして普段の足として数年間活躍し、大好きなバイクでした。
しかし数年後、私は転職することになり、さらに「ある病気」が発症したことも手伝って、コレダスクランブラーを売却してしまうことになります。
その「ある病気」とは、バイク乗りの宿命とも言える持病。
『もっと大きい排気量がいい』という抗いがたい感情です。
という訳で次回はいよいよ原付を卒業し、3代目の愛車『エストレヤRS』について語らせていただきます。
続きはこちら