『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』“凄すぎる”のは言うまでもないので、原作コミック既読者の目線からの雑多な感想をば
MCUがついに到達した10年の歴史の集大成!
本作が“凄すぎる”ことは誰が見ても一目瞭然だと思うので、コミック『インフィニティ・ガントレット』の既読者、そしてコミックファンとしての目線から感想を述べます。
※全体的に、本作のみならず原作コミックについてのネタバレが含まれます。自己責任でご覧ください。
『ものすごい偉業』であることは語るまでもない
第一作たる『アイアンマン』の公開以来、はや10週年を迎えるMCU。
今や壮大なシリーズとなったMCUの偉業については、以前にも記事で讃えたところです。
そして、今回。
ついにMCUの大半を巻き込んだ超大型クロスオーバー映画『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』が公開されました。
本作の存在自体が『映画史上に類を見ない、ものすごい偉業』であり、本作の出来そのものも『色んな意味で、凄すぎる』という事実は、鑑賞済みの方なら概ね同意してもらえることと思います。
『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』がいかに魅力たっぷりの映画であるかについては,他のブログなどで語り尽くされておりますので、あえて本ブログで触れるまでもありません。
そこで、本記事では一応『原作コミックの既読者』の端くれである私の視点から、「コミックとの比較」をふまえて所感を書いてみたいと思います。
…と、偉そうに書いておいて、さっそく話の腰を折るような断りを一つ。
私が実際に読んだことがあるのは、90年代に発行されていた邦訳アメコミ雑誌『マーヴルクロス』の誌上で、『インフィニティ・ガントレット』のメインストーリーを追ったにすぎません。
その後の邦訳本やTPBも少しは持っていますが、本作『インフィニティ・ウォー』に関連するサイドストーリーや、近年の『Infinity』展開などは実際に読んだ訳ではないゆえ、無知な面があるかもしれません。
しょせん、ゆるい楽しみ方をしているファンの一人でしかありませんので、むしろ不備点などあればツッコミしていただけると幸いです。
衝撃的な「例の展開」について
さて今回、MCUのヒーロー達は『全宇宙の生命の半分を消滅させる』という、スケールの大きすぎる野望をもった敵『サノス』と相対します。
さらに厄介なのは、サノス自身、その野望を叶えるだけの実力を持ち合わせた存在であることです。
『インフィニティ・ウォー』終盤において、サノスは目的達成のために必要な『インフィニティ・ストーン』を6つ集めて全能の力を手に入れ、目的を達成します。
この『全宇宙の生命の半分を消滅させる』のは、コミックの物語中でも大きなイベントであり、これを外しては拍子抜けですから、おそらく劇中で「やる」ことは分かりきっていた訳です。
それにしても、『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』では『インフィニティ・ストーンの争奪戦』を軸に話を進めておいて、『クライマックスにサノスが全てのストーンを手にし、目的遂行する』という筋立てにしたのは、英断でした。
というのも、コミックでは『サノスがインフィニティ・ストーンを集め終わったところから』本編が始まっていたんですね。
当時のコミックでは、本筋となる巨大イベント『インフィニティ・ガントレット』 に先駆けて、サノスを主人公にした『サノス・クエスト』なるシリーズが連載されていました。
このシリーズでは、「サノスが宇宙に散らばるインフィニティ・ストーンを探索して一つ一つ入手していく」という過程が描かれており、いわば最終決戦をひかえた前哨戦というわけです。
この時点で、地球のヒーローたちはサノスがそんな活動をしていることに気づいてすらいません。
で、晴れて全てのストーンを集め終わり、サノスが全知全能の存在になってから『インフィニティ・ガントレット』展開が始まりました。
ですから、地球のヒーロー達は『何がどうなっているのか分からないままに、周りの人間の半数が消え失せる』という現象に直面しました。
後で宇宙のヒーローがサノスの脅威を知らせに来たことで、事の重大さが分かったわけです。
いきなり究極の大ピンチ状態からスタートするため、そのインパクトたるや凄まじいものがあって、だからこそ『インフィニティ・ガントレット』は名作と呼ばれるのでしょうねぇ。
でも、この『生命いきなり半分消滅』のプロットはコミックだからできることであって、映画的ではありません。
まして、MCUでは今まで膨大なパワーを持つ『インフィニティ・ストーンらしきアイテム』が多数出ていて伏線となっていましたから、それを最大限に活かしてくれたと言えるでしょう。
この辺、料理の仕方が本当にうまいと思います。
さらに、『サノスを主人公としたインフィニティ・ストーン探索』をメインストーリーにしたことによって、今回初めての本格的な登場となる悪役・サノスについて描写できる時間が長くなり、キャラクターに厚みを持たせられているのも素晴らしいです。
主人公・サノス のキャラクター造形
多数のキャラクターが登場する本作において、あえて主人公は誰かを挙げるならば、おそらくサノスがそうでしょう。
残虐だが、慈愛に満ちているとも言える。
信念に忠実だが、独善的で狂っている。
そんな彼のキャラクターに惹かれた方も多いのではないでしょうか。
本作のサノスがコミックと大きく異なる点は、彼の動機です。
彼が『宇宙の生命を半分にする』ことを目指している理由は、本作では『宇宙から飢餓や貧困を根絶するための口減らし』だと説明されていました。
しかし、この理由だと非常に初歩的な疑問が生まれてしまいます。
『全能の力を使えるのなら、その力で食料や資源の問題を解決すればいいだろうに、何で大虐殺へ走るのか』
これが理解できないゆえ、サノスの使命感に魅力は感じても、彼の理念に共感する人ははいないでしょう。
彼がその手段にこだわる理由があるのかもしれませんが、今のところ劇中で明確に説明されていません。
一方コミックでのサノスの動機は、単純にして業の深いものでした。
すなわち『一人の女性に、自分を愛してもらいたいから』という非常に個人的な動機です。
そもそも、私が思うにコミックのサノスは非常にアンバランスなキャラクターです。
知性も戦闘能力も宇宙トップクラスの大物で、カリスマ性にも優れた巨魁でありながら、彼の望みはいつだって『愛が欲しい』という、子どもみたいな純粋な欲望なのです。
なぜ彼がそうなったのかというと、彼の生い立ちに関係があります。
コミックでのサノスの生い立ちを紹介しましょう。
サノスは「エターナルズ」と呼ばれる、不老長寿と超人的な力を持った宇宙人(MCUで言えばアスガルド人のようなもの)の出身で、しかも王子でありました。
ところが、エターナルズは地球人と同じような外見をしているものなのに、彼だけは紫の肌と割れたアゴをもつ異形の姿で生まれてしまいました。*1
幼少の頃から天才的な知性と才能を持っていたにも関わらず、その悪魔的な外見のせいで周囲から忌まれ、孤独に過ごしたといいます。
サノスの双子の弟であるエロス*2は美男子に生まれて健やかに育っていましたから、なおさら己の運命を呪ったことでしょう。
誰よりも優れた才能を持っていながら、誰からも愛されない。
その心の傷が、彼をクーデターに駆り立て、ついには父王を追い落として自分が王となるに至ったのです。
その過程で彼が信奉するようになったのが、『ミストレス・デス』。
全宇宙の「死」を司る、死の女神です。
サノスは(おそらく最初は反抗期と中二病的な動機で)彼女を崇めましたが、彼女の美しさに魅せられて、やがて女性としても愛するようになります。
しかし、超越的存在であるデスは、サノスのことなど相手にしてくれません。
そこでサノスは、死神であるデスに対して、最大の貢献をしてみせようと考えます。
すなわち、『宇宙全体の生と死のバランスを調節し、死の比重を大きくする』ことです。
『全宇宙の半数の生命を殺す』ことは、そのベストな実現方法でした。
このように、超・個人的な動機でとんでもないことをやらかすのがサノスという人で、その点で私は彼になんとも言えない愛嬌というか、可愛らしさを感じます。
サノス自身、MARVELのヴィランの中でも最大級の大物ではあるものの、『目的がわからないキャラ』と言われることがあって、『復讐』だとか『世界征服』だとか、明確で分かりやすい目標が無いのです。
高い能力を持ちながら、誰からも愛されない。
能力を示すことで愛されたいと願うが、能力を示す手段が暴力であるので、愛は得られない。
たぶん、彼は自分の器に対して高すぎる能力を持てあましているのかもしれませんね。
<閑話休題>
長くなりましたが、このようにコミックのサノスは『大物感』と『子供っぽい純粋さ』の同居したキャラクターであります。
その動機も超個人的だからこそ、ケタ外れの大虐殺を行う理由として成立します。
なぜなら、動機が個人的であればあるほど、他人から見ていかに狂った所業であっても、彼自身にしか理解できない価値観に従って動いていることが理解できるからです。
今回のMCU版の改変は、彼の『大物ヴィラン』の側面を拡大して見せていると言えます。(『覇王』という言葉が似合います。)
が、そのぶん『そんなに大局的な視点をもった為政者であるならば、なぜ虐殺などという手段に固執するのか』ということが不自然に思えてしまいます。
それについて、今のところの私の解釈としては、今回のサノスは『ヒーローとヴィランの境界線』を体現する人物となるべくしてキャラクター付けされたのだろうと考えています。
本作でサノスは『私だけが志を持って行動している』と言います。
が、彼のいう『志』とは、おそらく母星タイタンにおける過去の失敗に根づいた、単なる諦めと思考停止でしかないと見えます。
無限の力を手にしながら、それによって生命を救うのではなく、諦念に取り憑かれて大虐殺を行うのみ。
この点が、サノスがヒーローたりえず、決定的にヴィランたる理由です。
アメコミ原作者の大御所、アラン・ムーアの有名な言葉を引用しましょう。
俺たちは実は凄い力を持っているんだが、ソファに座ってビール片手にテレビを見ているだけだ。
スーパーパワーがあったって、やっぱりソファに座ってビール片手にテレビを見てるだけだろう。
馬鹿がコスチュームを着たところで、変な格好のおかしな奴が1人増えるだけだ。
ヒーローってのはスーパーパワーがあるとか、コスチュームを着てるって事じゃない。
自らの意思でもって世界を良くしようと戦う人々の事を言うんだ 。
これは本当にヒーローというものの核心を言い当てている定義だと思います。
サノスも最初は世界を良くするために戦っていたのかもしれませんが、いつしか、より良くするための手段を追求することを諦めてしまったのでしょう。
彼はおそらく『アベンジャーズ4』で、このようなテーマを浮き上がらせる役割を果たすのではないでしょうか。
逆転の鍵を握るのは誰なのか?
さて、『インフィニティ・ウォー』でヒーローたちは敗北を喫した訳ですが、ここから逆転するにはどうしたらいいのでしょうか。
これもすでに諸説飛び交っているので、他の博識な方に任せるとして。
今後の展開について気になる要素について、ざっくばらんに語ってみます。
ソウル・ワールドの存在
今のところ確定情報としては、MCUにも『ソウルワールド』が存在することが判っているので、それが鍵になりそうですね。
『ソウルワールド』は、インフィニティ・ストーンの一つ『ソウルストーン』の中に存在する、異次元世界のようなものです。
コミックではサノス打倒のために重要な役割を果たしました。
『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の共同監督、ソウル・ストーンに関するファンの推測は正しいと認める
上の記事により、本作のラストでサノスが佇んでいた場所はソウルワールドだということが判っています。
MCUでどういう扱いになるか判りませんが、どう活用してくれるのか楽しみです。
キャプテン・マーベルは男か、女か
エンドロール映像でニック・フューリーが持っていた、ポケベルのような機械に浮かぶ謎のマーク。
あれは心が弾みました。
サノスの宿敵の一人であり、宇宙の平和を守る戦士『キャプテン・マーベル』のシンボルマークだからです。
キャプテン・マーベルの名を持つヒーローは主要なところでは2人おり、
初代はいわゆるスーパーマン型に近い異星人ヒーロー。
現行の2代目は初代のガールフレンドだった地球人。
2代目は長く『ミズ・マーベル』*3を名乗っていたので、個人的にはその名が馴染み深いです。
キャプテン・マーベルはすでに単独映画が予定されており、公開時期も『アベンジャーズ4』の直前ということもあって、ストーリーに深く絡んでくるのは確実だと思われるので、今から楽しみです。
単独作で女性のマーベルが登場するのは間違いありませんが、時系列の問題もあるので、今回フューリーが呼んだ相手が初代と2代目のどちらなのかも気になるところです。
アダム・ウォーロックは登場するのか
そして、一番気になるのは『アダム・ウォーロック』の存在。
アダム・ウォーロックは人工生命体のヒーローなのですが、彼のオリジンはややこしいので割愛します。
かなり強力な力をもったヒーローであり、ミステリアスで冷静な人物です。
ともかく彼はサノスの宿敵の一人であって、ソウルストーンと非常に深い因縁をもったキャラクターです。
コミックでは、アダムがアベンジャーズを始めとした地球のヒーロー達を導き、サノス打倒作戦を指揮しており、前編にわたって物語のキーマンとなっていました。
MCUにも登場してくれることでしょうが、だとしたら『アベンジャーズ4』に間に合うのか、楽しみです。
というのも、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー リミックス』のエンドロール映像にて、ソヴリン人(金ピカ宇宙人)がアダムの「繭」と思われるものを開発していた映像があったので、遅かれ早かれアダムが登場することはほのめかされているからです。
ともあれ、ぜひ登場して、ヒーローたちの逆転に力を貸してくれると嬉しいですね。
そんなわけで、非常に雑多な内容になってしまいましたが、MCUをさらに楽しむ一助になれれば幸いです。
しかし、あらためてMCUをというものを同時代に観られることは幸せとしか言いようがありません。
我々一人一人が時代の目撃者に違いありません。本当に。