ソウル・エデュケーション

愛する作品や文化を消化し、エッセンスを次世代に遺す『魂の教育』を目指して

『スタートレック BEYOND』トレッキーによる悲喜こもごも。リブート版に足りないものとは?

新規ファンを獲得し順風満帆のスタートレックはどこに向かうのか?

旧来からのトレッキーが語ります。

 

f:id:soul_jam:20180131180316j:plain

 

 

www.youtube.com

 

J.J.エイブラムスが新生させた『スタートレック』劇場版の最新作『スタートレック BEYOND』。

 

 

映画自体は結構面白く、映像の美しさや演出には相変わらず大満足。

しかしながら、ファンとして思うところも多々ある作品でした。

 

以下、本作のみならず、2009年の11作目から始まったTOSのリブート作品(以下、「JJシリーズ」と呼称)、ひいてはスタートレックの劇場版シリーズ全体についても触れつつ、語ります。

 




※この記事は旧来のトレッキーから見た『スタートレック BEYOND』およびJJシリーズ全体に対する所感です。

私はスタートレックのファン歴20年ほどで、劇場版全作とTVシリーズの大半のエピソードは視聴しています。

また、ネタバレを多分に含んでおります。本作ならびに前作、前々作を未鑑賞の方はご注意を!



 

2009年、最初にJJ版「スタートレック」を見た時は、それはもう感激したものでした。

 

私の抱く『それまでのスタートレック映画に共通していた慢性的な不満』を見事に打ち砕き、ブレイクスルーしてくれた!と感動したのを鮮明に覚えています。

 

というのも、それまでのスタートレック映画はお世辞にも『ファン以外にお勧めできる映画』とは言えない作品ばかりだったからです。

 

 

 

端的に言って、JJ版以前の劇場版シリーズは、『ファン以外お断り』の色が非常に濃いものでした。

 

広大な宇宙を舞台にしたSF映画でありながら、アクションや戦闘シーンが少なく、冗長なものが多い。

もちろん面白い作品もありましたが、その面白さはTVシリーズを知っている』ことを前提とした『おなじみのキャラクターが織りなすドラマ』の面白さに大きく依存していました。

 

このことは本国アメリカでは大した欠点にはならないのかもしれません。

長年にわたってTVシリーズが放送されてファンが多数いる(はず)ので、知名度にまかせてキャラクターの魅力で持っていける!(多分)

 

しかし我が国でのスタートレックの立場は、深夜放送やケーブルテレビで放送されるマイナー海外ドラマの一つでしかなく、そうした効果はまったく!望めないのです。

 

 

参考までに、JJ版以前の作品を例にとって説明しましょう。

 

 ~~~~~~~~~~~~~

 

劇場版1作目スタートレック(TMP)』では、ほぼアクションシーンは皆無。何も起こらないシーンが長く、初見の人は退屈すること請け合い。

大オチの題材はなかなかですが、いかんせん映画自体が『2001年宇宙の旅』を意識したような冗長な作りです。(スポックがヴィジャー内部に突入するシーンはかなりのデジャヴだね!)

有名SFXマンを起用した特撮は素晴らしい出来ばえでしたが……とてもじゃないが、スタートレックを初見の人に進められるものではありませんでした。

 

7作目『ジェネレーションズ』もその傾向が強く、TVシリーズ2作品を知らないと魅力が半減する上に、次世代の主役艦エンタープライズの最大の見せ場は『撃沈され不時着するシーン』という残念加減。

クライマックスの戦闘シーンは『初老のオジサン2人が岩場で延々、くんずほぐれつ肉弾戦』という有様でした。

 

アクションに力を入れたと喧伝していた10作目『ネメシス S.T.X』ですらも、他のSFアクション映画の基準では地味な部類になるでしょう。

 

※ちなみに私は上に挙げたどの作品も大好きです!誤解のなきよう。

 

  ~~~~~~~~~~~~~

 

 

さて、そういったシリーズの状況に風穴を開けたのが、JJ版の『スタートレック』でした。

 

何が画期的だったのか。

 

 

まず第一に、この作品はTVシリーズの視聴を前提としていない』初の映画だったのではないでしょうか。

初代TVシリーズのリメイクではあるものの、物語はゼロから始まるので前提知識は不要!

何も知らずに見たとしても楽しめます。

  

そして第二に、『映像の美しさとアクションシーンの迫力!』

それまでのシリーズを圧倒的に凌駕する「宇宙船の巨大さ、力強さ」「ワープの超光速のスピード感」「スケールの大きな破壊シーン」が、重厚感のあるCGIで描かれていました。

今っぽいカメラワークに、ネタにされる「レンズフレアまみれ」の画面も、きらびやかとしか言いようがない…!

 

かくして、待ち望んだ『シリーズ初見の人でも楽しめるスタートレック映画』が誕生したのです!

長かった・・・。

まさに私にとって、待望の作品でありました。

 

 

そんな興奮をさせてくれたJJシリーズは、めでたく世間でも受け入れられヒット。

以後、『イントゥ・ダークネス』そして『BEYOND』と、シリーズを重ねてきました。

 

どの作品も面白い。

爽快感もあるし、見終わった後の満足感もある。

旧作ファンへのサービスや、オマージュ要素もある。

 

しかしJJシリーズを見ていくにつけ、私は新たな違和感に苛まれるようになってきたのです。

 

 

 

すなわち、『JJシリーズはスタートレックの魅力の、ほんの一面しか切り取っていない!』という違和感です。

 

『古参ぶるな!』『面白くて人気のある作品が出ているんだから良いじゃないか』と言われれば、それまで。

 私の感想は、ただのゼイタクなのかもしれません。

 

しかし、この問題を無視してはスタートレックというコンテンツの今後を憂うことになってしまいますので、語らせて頂きます。

  

 

 

このことを説明するには、スタートレックというものの魅力を見つめ直す必要があります。

 

私の考える「スタートレックの魅力」

①個性的なキャラクター

②キャラクターの織りなす人間ドラマ(我々の生きる現実にも通づる

前人未到の宇宙へ乗り出す、冒険ものとしてのワクワク感

④異文化や異質なものと出会い、共存していくことの興味深さ

⑤エピソードごとの風刺性、普遍的なテーマ性

⑥根底に流れる、『人類は何でも乗り越えて進歩できる』という楽観的な哲学

⑦以上の魅力を裏打ちする、ユニークなメカや科学理論、言語、世界設定

 

 

このように、魅力は多岐にわたります。

 

一つ一つに関して、JJシリーズにどう当てはまっているか見ていきましょう。

 

 

①個性的なキャラクター

これは文句なく、OKでしょう。

TOSの下敷きがあるとはいえ、JJシリーズ版のキャストも十分に魅力的で、良いキャラクターに成長しています。

3作続いたことで主要クルーがすでに「おなじみのメンバー」になっているのも高ポイントでしょう。

(※それだけに、アントン・イェルチェン氏の訃報が尚更つらい…)

 

②キャラクターの織りなす人間ドラマ

これは映画という上映時間の制限がある中で、健闘していると思います。

ただ、BEYONDに関しては、前2作に比べて一貫したドラマ性という意味では弱かったとは思います…。

 

前人未到の宇宙へ乗り出す、冒険ものとしてのワクワク感

これ!

一番問題にしたいのは、この点です。

JJシリーズの元となった元祖シリーズ(通称TOS)の最大の魅力はこの点だったと言っても過言ではありません。

 

前人未到の宇宙を旅し、宇宙の様々な怪奇現象に遭遇したり、新たな文明と出会っていくワクワク感…。

これがJJ版には大きく不足しています。JJシリーズの各作品を振り返ってみましょう。

 

~~~~~~~~~~~~~

 

・1作目では、バルカン星と地球の間を往復して、地球周辺で決戦。

(バルカンは惑星連邦の加盟国。いわば、1作目の事件は連邦の庭先でのこと。)

 

・2作目では、一旦は未知のクリンゴンの母星に行くものの、すぐに離脱。結局は地球に戻って決戦。

しかも戦う相手は惑星連邦の内部の陰謀。

 

・3作目では、エンタープライズは5年の深宇宙探査任務に出ているものの、惑星連邦の宇宙ステーションを起点に話が進み、最終的にはこのステーション内で決戦。

しかも戦う相手は惑星連邦の内部の怨恨問題。

 

~~~~~~~~~~~~~

 

…このように目下、JJシリーズの各作品は、「地球にほど近い庭先で」もしくは「地球人の内輪で」ドンパチやっているだけなのです。

これでは、冒険のワクワク感があるとは言い難いでしょう。

2,3作目は冒頭でちょっとだけ異文化との邂逅を描写していますが、それがとても口惜しい…。

 

カーク船長率いるエンタープライズ号は5年間の調査任務を通じて、それはもう数多くの意味不明な存在に出会い、そのたびに間一髪の危機的状況や、驚きの新発見を経験しているはずなのです・・・!

それを見られないのは、じつに口惜しいことです。

 

 

④異文化や異質なものと出会い、共存していく面白さ

これも③と同じ理由で、ほとんど欠けているといっていいでしょう。

異文化や異質なものと出会い…って、ほぼ出会ってませんからね!

 

⑤エピソードごとの風刺性、普遍的なテーマ性

これは、あえて言うなら『普通の映画並み』でしょう。

スタートレックにつきもののテーマ性、見た後の余韻のようなものは、あまりありません。

 

⑥根底に流れる、『人類は何でも乗り越えて進歩できる』という楽観的な哲学

これはかなり継承されていると言ってもいいでしょう。

 

もともと、スタートレック「人種差別」「性差別」「職業差別」「貧富の差」などがかぎりなく根絶された、理想的な人類社会の世界観を持っています。

人類は内輪の戦争や異星人とのファーストコンタクト、宇宙国際社会へのデビューと、順当にステップを踏んでいく過程で、そのような些細な問題は根絶し、洗練された文明人になったというワケです。

 

人類よりもはるかに進化し、全知全能のような力を持った存在も何度も登場しますが、それらも『人類が永遠に到達しえない超絶的な何か』ではなく、『いずれ人類も到達しうるレベルに先に到達した先達』という描き方が一貫しています。

 

『人間の知性と理性と勇気をもって事にあたれば、いずれは全てがうまくいく』という、そこだけ聞いたら呆れてしまうほどの楽観主義が、スタートレックの根底にはあるのです。

だからこそ、シリアスな話や重いテーマを扱うことはあっても、お先真っ暗と絶望することがない。

 

このポリシーは、JJ版でも継承されていると言っていいと思います。

 

 

⑦以上の魅力を裏打ちする、ユニークなメカや科学理論、言語、世界設定

 JJシリーズがとくに注力しているのが、これらの設定を圧倒的な説得力と迫力をもってして映像化するという部分でしょう。

実際それは成功しており、特にメカの描写の格好よさは出色です。

 

ただ、従来のスタートレックシリーズでは、これらは大きな魅力ではあるものの、本質的には他の要素を成立させるための飾りに過ぎなかったと思います。

 

微妙な表現ですが、

『メカ好きがカッコいい宇宙船をカッコよく活躍させる話を作ろうとした』

のではなく、

『舞台装置として必要だから宇宙船があり、そのデザインがユニークだった結果、メカ単体としても有名になった』

とでも言いましょうか。

 

実際、原作者ジーン・ロッデンベリーの存命中は氏の決めたガイドライン

『劇中で艦隊戦をさせてはいけない』

とか、

『惑星連邦製の艦船は全て「科学調査船」であって、戦闘目的ではない』

といったことが規定されていたと聞きます。

 

だから今までのシリーズでは、フェイザー砲はただの細い光線、光子魚雷は光る豆粒がちょっと爆発を起こすだけ…という程度の描写でよかった(?)のです。

 

メカやバトルをフィーチャーした結果、魅力のいくつかを切り捨てた。

JJシリーズはまさに、この点が画期的でもあり、諸刃の剣だったとも言えましょう。

 

 

 

問題なのは、この傾向が今後も続いていくのかどうかです。

スタートレックの冒険ものとしての側面や、異質なものを理解し共存するという風刺性を愛する者として、この方向性がエスカレートしていくのは実に悲しいものです。

 

私がこれほど懸念するのには理由があって、先に挙げたようなロッデンベリーの"ルール"は彼の没後、破られはじめて久しいのです。

 

惑星連邦初の『戦闘艦』であるディファイアントが登場し、ドミニオン戦争という大規模な艦隊戦も描いてしまった。

エンタープライズも戦闘的なE型へと進化しました。

未プレイですが、MMOである『スタートレックオンライン』のゲーム中では、劇中の年代がさらに下ることもあり、さらなる新型艦が多く出てきていたようです。

 

 

この傾向が長年続くことによって、取り込むファン層もカッコいいメカや派手なバトルを愛するようになっていくでしょうから、コンテンツとして最早、後戻りできない状態になってしまうのではないか…。

スタートレック『ドラマに満ちた星間冒険旅行もの』ではなく、宇宙戦争もの』になる日が来てしまうのではないか…。

 

まったく杞憂であってほしい のですが。

 

 

さて、このような懸念を含めてシリーズの今後を占うのが、来月より開始予定のスタートレックディスカバリーでしょう。

 

 

10数年ぶりのTVシリーズだけに、期待がかかります。

 

我々を大いに沸かせてくれたJJシリーズですが、それとは異なるアプローチをぜひ見たいものです!

 

 


宇宙史を彩る新たな一章『スター・トレック:ディスカバリー』初公開映像